挨拶における些末な不機嫌

尊敬語と謙譲語が変な風に入り乱れ始めたのは昭和の末期頃からでしょうか。最初に違和感を覚えたのは取引先から電話を受けたとき「社長おります?」と言われたときでした。更に、「本日はお休み(を)頂いております」と答えたところ−確かに括弧で「を」を入れた如く、実は「お休み、頂いて・・」と答えたと思いますが−近くにいた先輩から「その日本語はおかしい」と指摘されました。

「社長おります?」は明らかに間違いです。相手先の社長に対し謙譲語を使用するとはなんたること・・・と思っておりましたが、その後、この言い方は随分と使われているのを耳にします。「お休みを頂いて・・・」は「弊社の社長」が「お客様」から「お休みを頂いた」という考え方で正しいでしょう。確かに私の半拍おいた間では「社長にお休みいただく」という自社の社長に対する尊敬語をお客様に対して言っているという違和感はあったかもしれません。

このような違和感を伴う尊敬表現、謙譲表現は状態を表すときにまで使われるようになりました。「お忙しいところすみません」などというのがその最大の例で、私としては常に不快な気持ちになります。私が忙しいかどうかを相手に決められたくないところですし、常々「忙しい」は「心を亡くす」と書くので社内的にはBレベル使用規制言語(安易に使わぬようにというレベル)としているのに、社外に人が、特にお客様が仰っているときはどうしたらよいものか悩んでしまいます。

昭和時代には「お忙しいですか?」という表現はありましたが、「お忙しいところ・・・」はあまり聞いた覚えがありません。そもそも、そんな状態がわかっているなら電話なんか掛けてくるな!物事を頼んだりするな!・・・と今風に言えば「逆ギレ」しつつ、「いいえ、暇ですから」なんぞと応えると今度は相手が更に逆ギレしたりもします。挨拶はもともとの言葉の意味では使用されておらず、「こんにちは」にしても「おはよう」にしても本来の意味では無く定着したものでしょうが、何を好き好んでこの平成時代に新しい日本語の挨拶を加えていかなければならないのか・・・無理な尊敬語や謙譲語を使おうとしすぎるからで、もっと「気楽に」話したいものです。