文武併道

我が母校、埼玉県立浦和高等学校の校訓は「尚文昌武」であります。19世紀末、日清戦争に勝利し、欧米列強への対抗心が強くなる中、世間が「尚武の精神」を強く説いていた時代、当時の校長先生が、「武にのみ偏るなかれ」との考え方からその真ん中に「文」と「昌」の字を挟み込んで作られた造語であり、四字熟語辞典には掲載されておらず、母校関係者のごく一部のみにしか知られておりません。「文を尚(たっと)び武を昌(さか)んにす」とも読みます。類似する・・と言うより、世間的に認知度が高い四字熟語に「文武両道」がありますが、まあ、意味としてはほぼ同義と考えられるでしょう。

この文武両道に関し、我が母校のみならず、埼玉県内の旧制中学から継承した五つの男子校(浦和・熊谷・川越・春日部・松山)は概ねその考えを踏襲しております。文に関してはいわゆる一流大学に進学する比率が非常に高く、川越高校からはノーベル賞受賞者も輩出しておりますし、武に関しては県内に200以上存在する高等学校の中で、多くのスポーツでベスト8に入り、また、多くの全国大会出場者を輩出いたしております。重要なのは「成績優秀な生徒『が』全国大会レベルのアスリートである」ことであり、それを以て「文武両道」とすべきであることを理解している・・・ということであります。多分、他県でも、旧制中学時代からの学校は、ほぼ同じような動きをしているのではないかと想像できます。

しかし、昨今では、その意味をはき違えた「世間」が存在いたしております。元々、歴史と伝統を持つ、私立高校や、一流大学の付属高校等では、その傾向は見られませんが、戦後あたりから今日まで、徐々に頭角を現してきた私立高校に見られる傾向として、「文武併道」の学校が多々あります。前述の『が』を『と』に置き換え、文末を少々いじって「成績優秀な生徒『と』全国大会レベルのアスリートがいる」といった学校が平成時代に入ってから増殖してきております。「偏差値70以上だが、100mを走らせると20秒以上かかる生徒」がおり、「七の段の掛け算が言えないが、100mを10秒台前半で走る生徒」が同じ学校(或いは系列校)に存在し、それを堂々と「文武両道」と称しております。つまり、「文武両道」の生徒がいるのではなく、「文に長けた者」と「武に長けた者」の2人を以て構成されている、分業制が出来上がっている訳です。これを「世間」は、「あの学校はトーダイに受かる子がコーシエン出場するんだから凄いね」と考えてしまうのです。一部の(ややもすると大多数の)私立高校では、片やアスリートコースで短縮時間割を組み、朝練+14時〜19時の練習を行い、他方スーパーアカデミックコースでは部活動禁止・7時間目〜10時間目の授業を「勉強部という部活動」として行うので実質8時〜19時まで授業なんぞというところもあるくらいです。

この「分業制」の先には何が存在するか・・・簡単に言ってしまえば、「勉強しかできない子」と「運動しかできない子」を・・・要するに偏った人間を創造しているわけですから、当然、その子供達が社会に出てからの人間性に関しては推して知るべしです。「それは個性というものだ」と言われれば、それも一理ありますが、食事に例えれば、3年間、牛丼しか食していない子とカレーライスしか食していない子がマトモな人間になれるはずがない・・・というのは極論でしょうか?愚生から見れば、その危険性が理解できないのはその時点で、愚者であると思いますので、この風潮をもてはやす方がおられたら勝手にされたら良い。しかし、零細企業の経営者としては、そのような人間は採用せず、「偏差値50程度・100mを13秒程度で走る」若者を大事にしていきたいです。

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