転職のススメ

それなりの大学を卒業し、それなりの企業に就職したのは約四半世紀前のことでした。面接の際、人事担当役員の方から「この会社に骨を埋める覚悟は出来ているか?」と質問されたことをぼんやりと記憶しております。当時は終身雇用というのが常識であり、就業経験の無い学生をつかまえて、そのようなことを言っても誰も驚かず、また、面接を受ける側も「この会社で定年を迎えるまで頑張ります。」などと答えるのがお作法であったようです。

気がつけばその企業には8年ほどお世話になり、「オトコ30にして立つ」を実践、一度失敗して3年程小さな会社の中間管理職として働いた後、再度独立を果たし、今日に至る・・・というのが私の人生でしたが、思えば年号が平成に変わったばかりの頃、転職というのが流行り始めた時期でもあったかもしれません。

50歳を目前にして、高校、大学の同期生と会うと、半数以上が当初と違う職に就いております。就職した企業の吸収合併や組織変更によるものもありますが、上手に生きている連中は時代に合致した優良企業から優良企業へと渡り鳥のように動いているものが多い反面、就職先の業績悪化による人員削減等により止むに止まれずの転職をした者も多くいます。私のように自らの意思で独立なんぞという蛮行に出た者もマイノリティではありますが、いくらか存在しています。ただ、その四半世紀の社会人としての人生の間に多くても3〜4回の転職しかしていないはず。それにひきかえ、最近では我が社に応募してくる中途採用者の履歴書の職歴欄の字数の多いこと。中には面接で「御社をキャリアアップの場として2年ほどお世話になれれば」なんぞと堂々とのたまう30歳を過ぎた妻帯者までいる始末です。

転職が恥ずかしいことでなくなったのはやはり昭和が平成になった頃からでしょう。今では、転職するのが当り前。だから少しばかりでも嫌なことがあると退職してしまう人間が増殖しているわけです。それもこれも世の中に職業斡旋の会社がどんどん増えているからで、より自分に合った職場を求めて転職するのが世の流れのようです。皆さん青い鳥を探す旅に出るのが好きなようですが、青い鳥は身近にあるということに気がついてほしいものです。転職した人間の大多数はキャリアアップどころか、以前より劣悪な環境の中でもがき苦しむということに陥っているのに、一時的な現実逃避で、世間には美化されてしまった「転職」という愚劣な行為に出たいのならそれはそれで貴方の人生ですけれどね。