知らねぇよ

「ご存知の通り、昨日某所にてあんなことが起こりました。そう。あんなことです。え、ご存知無い?嘘でしょ?皆知ってますよ・・・」というイメージの話をされて不機嫌になった方は多いでしょう。人間というものは自分が知っていることは周囲の人間も知っているものと認識しつつ話をしていることが多く、それを知らないと二通りの反応を示します。

そのうちのひとつは相手が知らなかったことを率直にうけとめ、説明をすることです。「ああ、この人がこの件について知らなかったのは仕方が無いことだ」と概ねの場合そう考え、相手がその事を知らなくても当然である事に気がついた自分が多少気まずい思いをしたりするわけではなく、その場はさらりと流してしまうものであろうと思われます。

もうひとつの反応は、「そんな事も知らなかったのか?」と言う冒頭のような場合です。これが所謂「常識」と本人だけが(或いはその周囲の多くが)勘違いしていることであり、芸能人の誰と誰がくっついたとか別れたとかの話をしているオバサンには顕著に見られます。実は私達の周りで起こる様々なことどもの中で「絶対に」知っていなければならない共通項は数少なく、知らなくても良いがたまたま多くの人が知っていた事象ばかりが話題になるのでしょう。嘘のような本当の話としては、10年程前、米国出張に行くという話をしていたら、たまたま同席したとある方が「ニューヨークの○○通り○○番に姪がいるので土産を託けたい」と仰いました。私の行き先はシリコンバレーでしたし、周りの人に窘められ、その話はボツとなりましたが・・・その方は地域の名士とも言えるような方でしたのに・・・

圧巻だったのはもう1件の例題。やはりとある立派な方(ただし、私はできればお付き合いしたくない)が「○○(最近の流行歌手)の新曲聞いたかね?」と仰ったのですが、私はその歌手の名前すら知らず、「存じ上げませんが」と答えましたところ、「キミほどの音楽通が知らないわけはないだろう。3年も前にデビューし、新曲だって出てからもう2週間くらい経つよ。」とのたまうので・・・思わず、「では、レスピーギ交響詩『ローマの松』の第二曲『カタコンベの松』はお聴きになりましたか?」と返してしまいました。鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔に追い討ちをかけ、「多分、デビューして100年近いと思いますし、その曲も80年以上前に発表されてますよ」と追い討ちをかけ、以後、その方とはお話する機会がありません・・・そう。オレはそんなに何でも知ってるわけではないし、誰もが同じ。大抵のことに対して答えは「知らねぇよ」なんですよ。