生類憐れみの令

「ウチの子はちゃんと躾をしておりますからお利口さんにしていますのよ」なんぞと、自分の子供を自慢する人はそれほどいないでしょう。大抵の場合、このような表現をされる方は人間の子供ではなくペットを「ウチの子」と称していると思われます。自分の子供という意味ではその方にとってはほぼご自分の子供と同じ扱いであり、大変微笑ましい表現であります。

過日、とあるご家庭にお伺いした際、パグという犬種でしょうか・・・脚が極端に短くガニ股で不細工な顔をしたお犬様がおられました。耳に赤いリボンをつけ、チョッキのようなお洋服をお召しになったそのお犬様は奥様の膝の上にお座りになられ、「オマエは何者であるか?」と言わんばかりに私を睨み付けております。やがて馴染んできたかと思われ、私の膝の上へと移動して来られた後、突然、粗相をされました。ご主人も奥様も大慌てでしたが、発した言葉は「あらあら、○○ちゃん、だめじゃない」・・・2着しか持っていないスーツの1着を汚された私ですが、お犬様の御威光の前には作り笑いでその場を凌ぐ以外に対応策はありませんでした。奥様曰く「申し訳ありません。普段はお利口さんにしているんですけど、居心地が良かったのかしら・・・」

私は決して犬が嫌いというわけではありません。むしろ好きなほうです。そのご家庭のワンちゃんにしても、粗相に対する不満はあれど、まあ可愛いものだと思ってはおります。ただ、そのご家庭においては家族(家族同然を超越している)であろうとも、他人にとってはただの犬畜生であることをお忘れになられている飼い主の方には憤りを感じざるを得ません。

今、日本人のペットブームは新興宗教の様相を呈し、犬猫から始まり果ては猛毒を有する爬虫類や節足動物に至るまで留まるところを知らない様子です。冒頭述べた通り、人間の子供を扱う場合はそこまでの過保護なことは無いでしょうし、仮に小学生の子供が来客に対し小便をかけるなんぞという行為に出たら親としてどうするか・・・も考えていただきたい。そして、更にはペットに対する偏愛は片思いでしかないであろうと考えていただきたい。ペット禁止のマンションに去勢され声帯を除去された犬猫が多数飼われているという話ですが、彼等は望んでいる姿ではなく、飼い主の勝手でしかありません。本当に動物を好きな人は本来その動物のあるべき姿により近い状態を作り出してやろうと努力する――つまりはそういう動物の為には数千坪の自由に走り回れる空間と自然を与え自由に生きさせてやるべきで、狭いスペースに閉じ込めて窮屈な服を着せ去勢したり声帯除去をしたりするのは虐待であるということに気づいてはくれないのでしょうか。