ワインを熟知した諸兄へ

11月の第三木曜日午前零時の時報とともにボジョレーヌーボーなる大変ありがたいワインが解禁になるそうですが、諸兄におかれましては既にお召し上がりのこととお慶び申し上げます。さぞかし高級なワインで崇高な味わいであったことでしょう。下戸の私には味わえない高貴な方々にのみ許されたお楽しみで羨ましゅうございます。

という慇懃無礼な手紙でも出してやりたくなるほどのお祭り騒ぎはバブル期の最後にありましたが、今年は何やらそのヌーボーなるものの出来が類希なる良い年であったとかで、また久々にメディアが騒がしく感じました。たまたまその木曜日の夜、街に出かけることになったのですが、はてさて、其処此処で聴こえるこの話題。いつからこのお祭りが行なわれるようになったのかとんと記憶にございませんが、昭和が平成に変わる頃、たまたま輸出入関連の実務ができた私は輸入書類の作成やらロジスティック面でのお手伝いやらをしたことがありますので、既に20年くらい前にはひとつの話題にはなっていたのでしょう。

身の回りに自薦他薦を問わず多くの美食家がおりますので、全く酒を飲まない私でもいろいろなご意見を伺いつつ、本当にヌーボーなるものは美味いのか?という疑問に対する多くの見解をまとめてみましたところ・・・わかった事は、まず、費用対効果を考えると馬鹿馬鹿しい商品であること。すなわち、本来船便で送られてくるものを空輸するのだから実は支払っている代金の大方は航空運賃と付随する手間賃であるということです。それから、味に関して言えば所詮熟成されたものでは無いのでたいしたものではないということです。単純に「今年の新酒である」という雰囲気を楽しむものであり、これが今年のワインの出来のひとつの―あくまでもひとつの―指標であるだけで、ヌーボーそのものが最高のワインたりえることはあり得ないそうです。

実は、何年か前にこのヌーボーのラベルデザインをいたしました。写真撮影の為にその辺の酒屋さんで安いワインを何本か購入し、デザインしたラベルに張り替え、そのままになっていたものがあり、ちょうどその年の11月第三週頃、どうせ私は酒を飲まないのだからとちょっとした集まりに持って行き皆さんに飲んでいただきました。多くの方々が「今年は冷夏だったせいか味にキレが無いねぇ」「なかなか良い出来じゃないか」・・・等、その似非ヌーボーの評価を始めてしまい・・・もはや「これはヌーボーじゃないんです」なんぞと言いだせず、皆様を騙してしまったことを今ここで懺悔いたします。ワインを熟知した諸兄におかれましてはよもやラベルに惑わされて後でこのようなコラムのネタにされることは無いであろうと信じてやみません。